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    伝統を重んじ、新しく改革していく

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    株式会社NEO ACADEMYの会社概要

なぜ日本のECは「信頼される」のに「選ばれにくい」のか : 中国消費者インタビューに見る評価の分岐と越境ECの未来

日本製品は、依然として中国市場において高い評価を得ております。
特に「品質の確かさ」や「安全性」への信頼は揺るがず、日本ブランドの持つ誠実なものづくり精神は、多くの中国人消費者にとって安心の象徴とされています。
しかしながら、その一方で、日本のECサイトそのものが積極的に利用されているかと問われると、多くの声は否定的です。

「信頼しているけれど、わざわざ日本の通販で買おうとは思わない」―この矛盾とも言える評価のねじれが、現実には存在しています。

なぜ、信頼されているのに選ばれないのか。この問いの核心には、単なる利便性の問題を超えた、文化的・構造的な「体験価値の差」が横たわっています。

本稿では、中国人消費者に対する定性インタビューをもとに、日本のECに対する印象と行動のギャップを紐解き、越境ECに求められる“文化翻訳”の視点を提案いたします。

1.「誠実さ」は評価されている。だが“快適さ”には届いていない

日本のECサイトに対し、中国の消費者は一様に「信頼できる」「騙されない」と評価しています。

「写真と実物に差がなく、説明も細かい。安心して買える」
「問い合わせへの対応が人間味があって丁寧。自動応答じゃないのが嬉しい」
(30代・女性・広州)

こうした声は、日本の小売文化が育んできた「誠実さ」や「丁寧さ」に対する高評価に他なりません。
とりわけ化粧品、ベビー用品、医薬品、調理器具など、“品質と安全性が購買基準となる商品群”では、日本のECサイトは「信頼できる選択肢」として一定の支持を得ています。

しかし、実際の利用頻度は決して高くありません。なぜでしょうか。その理由は明確です。
「手間がかかる」「届くのが遅い」「自分のリズムに合わない」―つまり、体験としての快適さが不足しているのです。

2.日本サイトの「安心設計」が、逆に“距離感”を生んでいる

日本のECサイトに慣れたユーザーにとって、細かい利用規約や確認画面、丁寧な文言はごく自然なものであり、信頼を担保するための手続きとして理解されています。
しかしながら、中国のスマートフォンネイティブ世代にとっては、こうした“丁寧さ”が時に煩雑さと受け取られ、スムーズな購買体験を妨げる原因となっています。

「日本のサイトは5ステップもあるけど、中国のは2ステップで済む」
「すぐ欲しいのに、届くのが遅すぎる。他で買ってしまった」
(20代・男性・北京)

これは単なるUI/UXの違いではありません。「合理性の捉え方そのものが異なる」という文化的背景が根底にあります。
日本では、過不足のない情報提供や本人確認を通じて、トラブルを未然に防ぐことが「安心」とされます。

一方で中国では、「万一何かあっても、すぐ返金や交換してくれる」ことのほうが、信頼の基準として重視される傾向があります。

つまり、日本の「予防的合理性」と中国の「応答的合理性」は、サービス設計の根底にある価値観からして対極にあると言えるでしょう。
この前提の違いを理解せずにシステムやプロセスを設計すれば、「安心さ」が逆に“距離”を生む構造的な矛盾に陥ります。

3.“返品しにくい”ことは最大の離脱要因である

インタビューでは、「返品・交換のしづらさ」が日本のECサイトに対する最大の不満として、複数の消費者から挙げられました。

「返品のために、日本語でカスタマーに連絡し、理由を説明し、ラベルを印刷して発送。あまりに面倒で諦めた」
(40代・女性・上海)

一方で、中国国内の主要ECプラットフォームでは、「ワンクリックで返品申請」「翌日に宅配員が集荷に来る」といった仕組みが当たり前となっており、「返品できることが購入前提」となっています。
日本側は「返品の乱用を防ぎたい」「正当な理由が必要」といった内部論理を重視しがちですが、越境ECの文脈ではそれが「返品できない=安心して買えない」という真逆の意味に変換されてしまいます。
こうした価値観のギャップを放置したまま展開を進めても、結果として“質が良くても売れない”という現象を招きかねません。

4.“語られないブランド”は、そもそも存在しないも同然

もう一つの見逃せないポイントが、「語られること」の欠如です。
中国のEC文化において、商品購入は単なる個人の選択ではなく、SNSやライブ配信、レビュー文化と不可分の「語りの連鎖」に組み込まれています。

「知らないブランドは、まず小紅書(RED)で調べる」
「日本のメーカーはSNSの露出が少なくて、存在感がない」
(20代・女性・成都)

つまり、“語られていない商品”は、そもそも認知すらされないのです。いくら公式サイトが整っていても、第三者によるレビュー、ショート動画、KOLの発信などがなければ、信頼以前に「存在しないもの」として扱われてしまいます。

これは「良いものを作れば、いずれ伝わる」と信じる日本的思考が、情報流通の構造そのものが異なる市場では通用しないことを示唆しています。

結論 日本の「誠実さ」を、アジア的「即応文化」にどう翻訳するか

日本のECは間違いなく信頼されています。しかしながら、それは「選ばれる理由」には直結しておりません。
中国市場では、信頼は「語られ」「瞬時に対応され」「簡単に引き返せる」ことのなかで初めて獲得されるのです。

今後、日本企業が越境ECで信頼と選択の両立を実現するためには、次のような“文化翻訳的アプローチ”が求められます。

  1. 日本式の誠実さを維持しつつ、UX・返品・応答スピードの最適化を図ること
  2. 中国の消費文化の中心であるSNS・コミュニティに、自ら「語られる場」として参加すること
  3. 「未然に防ぐ安心」から「即応で保証する安心」へと、サービス設計の発想を再構築すること

“安心できるから売れる”のではなく、“使いやすく語られ、失敗しても戻れるからこそ選ばれる”―
その現実を直視し、異文化理解と体験価値の再設計に踏み込めるかが、越境ECの未来を左右する鍵となります。

追記 文化を理解し、現場に落とし込むために

私たちは、中国消費者へのインタビュー調査や現地市場分析を通じて得た知見をもとに、「中国EC文化の構造理解」および「越境戦略におけるUX・カスタマー対応設計」に特化した講演・研修をご提供しております。
マーケティング・商品企画・CS・現地運営を担当される皆様に、現場で活用できる“文化翻訳の視点”をお届けいたします。
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