1.中国のECは「探す場」ではなく「出会う場」になっている
中国のECは、もはや“欲しいものを検索して買う場所”ではありません。
今、主役になっているのは、「偶然の出会い」であり、「誰かの使っている様子を見て、つい買ってしまう」行動です。
抖音(TikTokの中国版)や小紅書(RED)、快手といったSNSベースのECでは、ユーザーは買い物目的でアプリを開くわけではありません。でも、動画を眺めているうちに商品に出会い、「そのまま買える」。ここには、“自分の行動すら自分で決めていない”購買体験があります。
しかもその流れは、プラットフォーム側の推薦アルゴリズムによってコントロールされている。
検索という能動的な行為ではなく、“受動的な刺激を起点にした消費”が主流になっている点が、中国ECの最大の構造的変化です。
2.決済と配送が、想像よりずっと速い
中国では、欲しいと思ってから商品が手元に届くまでの距離が、極端に短い。
まず、決済はほぼ全てのプラットフォームでアプリ内完結。アリペイやWeChat Payが連携しており、ボタンひとつで即購入。住所入力も不要。初回購入でも驚くほどスムーズです。
配送もすさまじい。都市部なら24時間以内配送は当たり前。注文して6時間で届くこともざらにあります。
これは物流会社がすごいというだけではなく、プラットフォームが物流網を持っているからです。
京東は自社物流で全国を網羅し、アリババは菜鳥ネットワークを構築。倉庫、中継所、宅配網、すべて自前または系列で完結している。つまり、「売る仕組み」と「届ける仕組み」が一気通貫で組み上がっている。だから速い。だから途切れない。
ここに日本の感覚で“外注すれば整うだろう”と思って入っていくと、スピード感についていけません。
3.売ることと、宣伝することが、完全に一体化している
中国のECプラットフォームは、マーケティングと販売が切り離されていません。
広告を打つ → 認知を取る → 別の場所で売る、という段取りはない。広告を打った瞬間に売場であり、売場がそのままプロモーションの場でもある。
淘宝なら、広告(直通車)を出せば、商品ページ、検索順位、レビュー表示枠、ランキングなどすべてに影響が出ます。
ライブ配信も同じ。視聴者数が多ければその場でランキングが上がり、売れるほど露出が増える設計。反応が悪ければ即アルゴリズムに切られる。
さらに、価格設定・キャンペーン・クーポン発行・在庫調整などもライブ配信画面からそのまま操作できる。
「マーケ→販売→物流→顧客管理」すべてが1つの画面に収まっている世界。
これを知った上で参入しないと、いくら品質が良くても、並んでいるだけで終わります。
4.商品を“見せる力”と“育てる仕組み”が圧倒的に強い
中国ECのアルゴリズムは、単純ではありません。商品が売れた数よりも、「どれだけ長く見られたか」「何%の人が買ったか」「コメント欄でどう反応されたか」を見ています。
つまり、数字で測れない“熱量”を、スコアとして測っているということです。そしてそのスコアが、検索順位、推薦画面、ホームへの表示、すべてに影響する。
言い換えるなら、良い商品が埋もれるのではなく、“売り方が悪い商品”が淘汰される仕組みです。
一度、アルゴリズムに「好感触」だと認識されれば、次々と露出が増え、リーチが広がり、商品が“育つ”。これは人が頑張るというより、仕組みで育つ環境があるということです。
5.ライブとSNSが、消費者との「接点」そのものになっている
今の中国では、商品が売れる瞬間というのは、“誰かが話題にしたとき”です。
そして、その話題はライブ配信やSNSの投稿という「日常の延長線」で起きています。
淘宝直播や抖音直播では、KOL(インフルエンサー)がリアルタイムで商品を紹介し、視聴者がその場で質問して、価格交渉が入り、買う。テレビ通販の何倍もの密度で、何十万人を相手にやるイメージです。
また、小紅書では、KOC(一般消費者)が日常の中で商品を紹介し、その投稿が商品ページの一部として組み込まれます。
つまり、広告でなく“生活の声”として自然に購買導線が組み込まれている。
ブランドの論理ではなく、生活者の感覚の中で、売れる商品が勝っていく。ここが、従来の販促とは決定的に違う部分です。
まとめ “仕組みの完成度”が、中国ECの本当の強さ”
中国ECが“すごい”と言われるとき、それは単なる売上やスケールの話ではありません。
「思いついたらすぐ買える」「思わず買ってしまう」「買ったらすぐ届く」。この一連の購買体験が、無理なく、無意識のうちに成立している。そこが圧倒的なのです。
- 出会いの設計(アルゴリズムと接触)
- 決済と物流の一体化
- 販売と広告の統合構造
- SNSとライブによる日常的接点
- そして、それらすべてを支えるプラットフォームの情報設計とPDCAの自動化
これだけの要素が一体で機能しているからこそ、中国ECは強く、速く、深いわけです!
我々がこの市場と向き合うとき、「商品が良いからきっと売れる」ではなく、“この仕組みのどこに自分たちの強みを乗せられるか”を見極めることが、本当の意味での勝負です。