近年、中国の経済成長とともに、日本への移住を考える中国人の層が大きく変化している。
かつては留学生や技能実習生、国際結婚者が中心だったが、現在では高学歴のプロフェッショナルや資産家、起業家、さらにはセミリタイア層といった、多様な背景を持つ人々が増えている。
本記事では、最新のデータと移住者の動向をもとに、日本移住を考える中国人の属性を分析し、今後の市場動向について考察する。
1. 移住を考える中国人の主要属性
(1) 資産家・富裕層（HNWI：High-Net-Worth Individuals）
日本へ移住を検討する資産家や富裕層の多くは、総資産5,000万元（約10億円）以上を持つ層、または3,000万元（約6億円）以上のアッパーミドル層に分類される。彼らの出身地は主に北京、上海、広州、深センといった中国の一線都市が中心である。
移住の目的は、日本の不動産投資や長期滞在ビザの取得、子どもの教育といった要素が大きく、香港やシンガポールなどの金融センターと比較して、日本の相続税制度や資産保全の観点を重視している点が特徴的だ。
移住先としては、東京都心の港区や渋谷区、大阪の梅田・北浜エリア、京都、そして北海道のニセコなどのリゾート地が人気である。
投資対象としては、日本の不動産をセカンドハウスや資産分散の手段として購入する傾向があり、子どもをインターナショナルスクールや日本の一条校へ通わせるケースが増えている。
ライフスタイルにおいては、プライベート医療やヘルスケアの利用が多く、ゴルフやワインといったラグジュアリーな趣味にも関心を持つことが多い。
購買力も非常に高く、1億円以上の不動産を現金一括で購入するケースが珍しくない。
日本国内での消費もハイブランド品や教育、医療、文化資産（美術品・骨董品）などに集中しており、日本の高級市場において重要な存在となっている。
(2) 起業家・投資家層
起業家や投資家層は、中国でスタートアップを成功させた創業者やテクノロジー分野の投資家、ベンチャーキャピタリストが中心となっている。
彼らは日中間の事業展開を視野に入れ、日本での法人設立やビザ取得を検討するケースが多い。特に、越境ECやSaaS、フィンテック、ヘルスケア、ライフスタイルビジネスといった分野での活躍が目立つ。
日本での活動としては、日本法人を設立し、経営管理ビザを取得するのが一般的である。また、日本のスタートアップや老舗企業への投資、M&Aにも積極的で、ビジネスネットワークの構築にも熱心だ。
虎ノ門ヒルズや赤坂の投資家コミュニティに参加することも多く、日本国内でのビジネス展開に必要なネットワークを築いている。
彼らの購買力も高く、資産5,000万～1億円クラスの起業家でも年間数千万円規模の消費が可能である。ビジネスクラスの航空券や高級レストランでの接待、コワーキングスペースの利用などに積極的で、日本国内の高級サービス産業にも影響を与えている。
(3) 高学歴プロフェッショナル（ハイスキルワーカー）
AIやデータサイエンス、半導体、医療、バイオテクノロジーなどの分野で活躍する技術者も、日本への移住を増やしている。
この層の多くは修士号や博士号を持ち、日本企業の高度専門職ビザを利用して移住する。彼らはソニーやパナソニック、トヨタ、キーエンスなどのR&D部門に採用される傾向がある。
勤務地としては、東京の大手町・品川・六本木エリアや、大阪・神戸・京都の大学や研究機関周辺が選ばれることが多い。生活スタイルは職住近接型が好まれ、公共交通機関を利用することが一般的だ。
文化活動への関心も高く、美術館や音楽鑑賞を趣味とする人も多い。また、配偶者も高学歴・専門職であるケースが多く、家族全体で安定した生活を送る傾向がある。
彼らの平均年収は800万～1,500万円程度で、高層マンションやタワーマンションの賃貸物件に住むことが一般的である。
(4) セミリタイア層（FIRE層・移住リタイア層）
40～50代の富裕層、または中国の不動産・株式投資でFIRE（早期リタイア）を達成した層も、日本への移住を検討している。
この層は、日本の生活コストの安さや医療水準の高さを評価し、長期滞在ビザ（投資・経営管理ビザ）を利用して移住を進めている。最終的には居住ビザから永住権の取得を目指す人も多い。
移住先としては、福岡や札幌、京都といったコンパクトシティが選ばれることが多い。ライフスタイルは温泉や医療アクセスを重視し、シンプルな生活を求める傾向がある。
また、投資対象としては現地の不動産やシニア向けのヘルスケアビジネスに関心を持つことが多い。
年間の生活費は300万～500万円程度で、健康志向の高級食品や個人医療（人間ドック・予防医療）への投資が増加している。
2. 日本移住を選ぶ理由と今後の市場機会
中国人が日本移住を選ぶ理由としては、安全性の高さが挙げられる。
特に北京や上海のビジネス環境の変化に対する懸念が大きく、不動産投資を通じた資産分散やリスク管理の観点から日本を選ぶケースが増えている。
また、教育の質の高さや、AI・半導体・ライフサイエンス分野での研究開発拠点としての魅力も影響している。
今後、日本への中国人移住者の増加に伴い、高級不動産市場、インターナショナルスクール・教育市場、ヘルスケア・シニア向けサービス、中国人向けビジネスコミュニティの拡大といった分野でのビジネスチャンスが拡大すると予測される。
結論
日本移住を検討する中国人は、富裕層やハイスキル人材、起業家・投資家など、多様化している。
日本のビジネス環境や安全性を評価し、長期滞在や永住を目指す傾向が強まっている。
今後も日本の不動産市場、教育、医療・ヘルスケア分野での需要が拡大し、新たな市場機会を生み出すだろう。
